Lesson 4 – Main Text
Urashima Taro – 浦島太郎
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むかし、ある所に浦島太郎という若者が住んでいた。天気がよくても悪くても、毎日、海に出て魚を取る、まじめで心のやさしい若者だった。ある日、一日の仕事が終わって、浜を歩いていると、村の子供達が大きな声、さわいでいるのに気がついた。何をしているのだろうと思って行ってみると、子供達は一匹のカメをいじめて遊んでいるのだった。
「おい、みんな、ツルは千年、カメは万年も生きると言われている動物だ。いじめるのはやめなさい」
浦島がそう言っても子供達はやめないので、「それじゃあ、このお金を上げるから、おじさんにそのカメをくれないか」
こう言って、子供達からそのカメを買うと、海にもどして、命を助けてやった。
次の日、浦島が浜でつりをしていると、海のむこうから小さな船が近づいて来るのが見えた。その船には若くて美しい女の人がきれいな着物を着て一人で乗っているのであった。浦島は変だと思って聞いてみた。
「お一人でそんな小さな船に乗って、どちらへ行かれるのですか」
「実は船で遠くまで行く途中で、あらしにあって、船がしずんでしまったのです。私だけは運よくこの小さな船に乗れましたが、ほかの人達は、みな死んでしまったらしいのです」女はそう言って、泣き始めた。
「あなたにお会いしたのも何かの「えん」でございましょう。お願いですから、この船で私をふるさとまでお送りいただけませんか」
かわいそうに思った浦島は、その女をふるさとまで送ってあげることにした。
女のふるさとまでは十日ほどかかった。浦島はそこに着いておどろいた。家々の屋根は金で、かべは銀で作られていた。そこにある物は全部、ゆめではないかと思うほど美しかった。
その女は、浦島が生まれて初めて食べるようなおいしい料理とお酒を女中達に持って来させた。またその村の美しい女達におどりをおどらせて、浦島に見せた。
「家族はみんな海にしずんで、私は一人になってしまいました。これから、どうしたらいいか分かりません。…お願いですから、ここに残って私と二人でくらして下さいませんか」
このように頼まれて、やさしく美しいこの女を一人おいて帰ることも出来ず、浦島はここに残ることに決めた。
二人がいっしょにくらした部屋も、またすばらしかった。東の戸をあければ、春のさくらがながめられ、南の戸をあければ、夏の海に涼しそうに鳥が飛んでいた。そして西の戸のむこうには、遠い山の秋のもみじが見えて、北の戸の外では雪が静かに降っていた。
このように浦島は時のたつのを忘れるほどしあわせな日々を過ごした。しかし三年ほどたったある日、急に村に残してきた両親のことを思い出した。浦島はもともと親を大切にする孝行なむすこだったが、ここの生活が楽しすぎて、忘れてしまっていたのである。
「すぐ帰るつもりで家を出たが、三年の間一度も家へ帰らなかった。両親が心配しているはずだから、ちょっと帰って、ようすを見て来ようと思う」そう言うと、その女は「今、お帰りになったら、今度はいつお会いできるでしょう」と言って、泣き始めた。
「本当のことを申し上げましょう。ここは「りゅうぐう」と申す所で、私は、三年前にあなたに命を助けていただいたカメでございます。あなたのおかげで、私は今もこうして生きていられるのです。このご恩は一生忘れられません。恩がえしをしようと思って、あなたとけっこんしたのでございます。今、ここをお出になったら、もうお会いできないかもしれません。このはこを私の思い出として持って行って下さい。でも、けっして、ふたをおあけになってはいけません」
浦島はここでの三年間のしあわせを思いながら、また船に乗って自分のふるさとへ帰って行った。
ところがふるさとの浜に着いて、自分の家をさがしたが、どうしても見つからなかった。おかしいと思って村の人に聞いてみた。
「このへんに浦島という年寄りが住んでいるはずですが、ごぞんじありませんか」
「あなたはどなたですか。浦島という人なら七百年も前にこのへんに住んでいた人で、そのむすこが海につりに出たまま、帰って来なかったという話しを聞いたことがありますが…」
自分が三年だと思っている間に、七百年もの時が流れていたと知って、浦島は悲しくなって、泣き始めた。もう両親もいないし、家もない。今、浦島の持っているのは、あの女にもらったはこだけだ。あけないように言われていたのに、浦島は悲しくて、ついそのふたをあけてしまった。すると、中から白い煙が出て来て、その時まで若かった浦島はあっという間におじいさんになってしまった。そのはこには七百年も生きた浦島の年がしまってあったのだ。
その後で浦島の体はツルになって高い空へのぼって行った。これもまた、あのカメの恩がえしだったのかもしれない。