Lesson 2 – Main Text
A Letter to My Parents – 両親への手紙
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お父さん、お母さん、お元気ですか。先日の妹からの電話で、おじいさんがかぜをひいたと聞いて、少し心配していますが、もうよくなりましたか。もう年なのですから、一日中、畑に出て働いたりせずに、もっと体を大事にするように言ってください。
僕の方は、よく食べて、よく寝て、とても元気です。もちろん、自分で作る食事や外の食事は、お母さんの作ってくれる料理ほどおいしくありませんが。また朝早く起きられなかった日には、朝ご飯を食べずに、昼と夜にたくさん食べたりします。こんな食べ方は、体によくないそうですが、朝、食べないという人はずいぶん多いようです。
東京の生活にもだいぶなれました。おじさんがさがしておいてくれた、この目白のアパートは、とても便利な所にあって気に入っています。大学まで電車で三十分もかかりません。こんなに東京の中心に近い所にあるのに、家賃が六万円というのは、ちょっと信じられないと大学の友達も言っています。
ふろがないのは不便ですが、歩いて五分の所にふろ屋があって、中で泳げるほど広いふろに入れるので、このごろはふろ屋の方がいいと思うようになりました。ふろ屋と言えば、そのふろ屋で、ときどきアメリカ人に会います。その人は今年の冬に来たばかりだそうです。たくさんの人がいっしょに入る日本のふろ屋はどうですか、と聞くと、知らない人達といっしょに入るのだから、始めはやはりはずかしかったけれど、もうなれましたと言っていました。
その人はシアトルという美しい町で生まれて、小学校に入る前にアイダホという所にひっこしたそうです。そこも美しいけれど、いなかだから人が少なくて、こちらに来た時は、人口の多さにおどろいたと言っていました。日本の人口が一おく二千万人ぐらいで、そのうちの十パーセントぐらいが東京にいるのだと教えてあげたら、ニューヨークよりも多いのですかと言って、またおどろいていました。それから東京の物価が高くて困ると言っていましたが、日本人の僕がおどろくくらいですから、外国人が高いと思うのは当たり前ですよね。
この間、六本木へお酒を飲みに行って来ました。その時、僕達の入った店は外国人のお客さんが多くて、外国へ行ったような気持ちになりました。そのふろ屋で会ったアメリカ人に六本木のことを話すと、あんな所で遊んでいるのは金持ちの外国人ばかりで、私のようにびんぼうな学生は行けませんよ、と言って、わらっていました。ドルも前より安くなっているから、外国人の生活は大変だろうと思います。
東京という町は本当に便利な所です。世界中の料理が食べられるし、外国から有名な歌手やジャズやロックのグループが来て、毎日あちこちでコンサートをやっています。つまり世界中のものを見たり、聞いたり、食べたりできるのです。でも、物が多すぎて、洋服とかステレオなどを買おうと思ってデパートに行っても、何を買うか決めるのに困ってしまうくらいです。
そんなに物が多いのに、一方では、足りない物もあります。その一つは自然でしょう。このへんにも小さな公園はいくつかありますが、木は少なくて、森や林と言えるようなものはありません。まどから見えるのは「ビルの林」ばかりです。昨日読んだ新聞に、東京の土地の四十パーセントが森や林だと書いてありましたが、東京の中心に住んでいると、そんなことは信じられません。木が多いのは西の山の方だけなのでしょう。
去年までは、このきせつにはいなかの川で毎日のように、つりをしていたのを覚えていますか。この近くには魚のいるような川はぜんぜんありません。おじさんが今度、山へ連れて行ってくれると言っていますが、水のきれいな川までは車で二時間くらいかかりそうです。おじさんの話しによると、山の方の川も少しずつきたなくなってきているそうです。
それでもこちらでは、いろいろなアルバイトをしたり、ふろ屋で外国人に会ったり、いなかではできない事が経験できるので、東京の大学に来てよかったと思っています。もうすぐつゆに入って、雨の日が続くでしょうが、お体を大切にしてください。
ではまた。
春男
六月十四日