Lesson 1 – Main Text
(1) On the Subway
(1) 地下鉄の中で
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(一人の外国人が東京の地下鉄の中で地図を見ながら心配している)
ハ: あのう、ちょっとうかがいますが。
青: 何でしょうか。
ハ: 六本木はまだでしょうか。
青: ええ、まだですよ。四つか五つ先ですよ。私も六本木で降りますから教えてあげますよ。
ハ: ありがとうございます。日本へ来たばかりで、駅の名前がよく聞こえないんです。二年も勉強しているのだから、もっと分かるはずなのですが。
青: まだ二年しか勉強していないのに、もうそんなに上手に話せるんですか。
ハ: いえ、いえ、まだ下手ですよ。言いたいことがあっても、うまく言えないことがしょっちゅうあります。
青: どちらからいらっしゃいましたか。
ハ: アメリカからです。
青: そうですか。実は、私はこのごろラジオで英語の勉強をしているんです。仕事が忙しいので、一日、三十分しか出来ないんですが、でも、毎日少しずつやることにしているんです。
ハ: それでは、英語で話しましょうか。
青: いえ、ちょっと…、それはまた今度にしましょう。私もあなたのように若いうちにもっと勉強しておけばよかったと思いますよ。特に外国語のようなものは。
ハ: 若くても、なかなか覚えられないものもありますよ。私の場合、漢字がにが手で困っています。
青: なるほど。漢字は覚えるのが大変でしょう。
ハ: ええ、新しい漢字を覚えるたびに、前に習った漢字を忘れてしまいます。
青: あれっ、今の駅はどこだったかな。地下鉄は外が何も見えないから不便ですねえ。
ハ: 外を見ても、どこを走っているのか分かりませんからね。
青: まだお名前をうかがっていませんでしたね。
ハ: 私はハイゼンベルグと申します。
青: ドイツ人のようなお名前ですねえ。
ハ: はい、実は私のおじいさんはドイツから来たのです。
青: そうですか。…あの、ちょっとお教えしておきますが、今の場合には「祖父」を使った方がいいですよ。
ハ: あっ、そうでした。自分の家ぞくの場合は祖父、祖母を使うんでしたね。何度言われても、忘れてしまいます。
青: そればかりではなく話しているのが目上の人か目下の人かによって、どのくらいていねいなことばを使うか決めなければならないから大変ですね。私は青山と申します。赤いとか青いとかの青です。まあ、漢字の話しはやめておきましょう。ところで、いつまでこちらにいらっしゃいますか。
ハ: 半年で帰らなければなりません。クリスマスまでには帰って、お母さんとお父さん、ではなくて…母や父といっしょにクリスマスを過ごすつもりです。
青: この広い東京でお会いしたのも、何かの「ごえん」でしょうから、一度、家に遊びにいらっしゃいませんか。
ハ: どうもありがとうございます。ぜひうかがいます。でも、その「何かのごえん」というのは何ですか。
青: ああ、これは分からないでしょうね。やさしく言えば…、仏教のことばですが、まあ、ずっと前から、たとえば私やあなたが生まれる前から 今日、私達がここで会うことが決まっていたとか、もともと二人の間には何か関係があった、というような意味です。あまりうまく説明できなくて、すみません。
「次は六本木です」というアナウンスがあるが、二人には聞こえない。
ハ: おもしろい考えですねえ。すると青山さんは仏教を信じていらっしゃるのですか。
青: いいえ、別に信じてはいませんが、日本語の中には仏教から来たことばがたくさん残っているんですよ。あっ! 六本木ですよ! 急いで! あっ! かばん! かばん! それから、かさ!
(二人は出口の方へ走っていくが、二人の前でドアがしまる)
ハ: どうもすみません。私がつまらない質問をしなければよかったんです。
青: いいえ、私の方が悪いんです。しかし二人いっしょに六本木で降りられなかったのも、何かの「えん」かもしれませんよ。普通、このことばは悪いことについては、あまり使わないんですがね。