Lesson 12 – Main Text

On the World Economy – 世界の経済

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アメリカ人も日本人もコーヒーが好きだ。店で飲むコーヒーのねだんがアメリカでは一ぱい一ドル前後で、日本では五、六百円だという違いはあっても、とにかくコーヒーをよく飲む。しかし、アメリカも日本も、自然条件のせいで、ハワイをのぞいて、自分の国でコーヒーの木を育てることは無理である。どちらの国も、中南米を始めとして、アフリカ、中東東南アジアなどの国々から輸入している。 以前の日本では、ご飯を食べるたびに、お米を作ってくれた農民に感しゃしなければならない、と言ったものであるが、それと同じようにコーヒーの好きな人達は、これらの国でコーヒーを植え、つみ取ってくれる人々に感しゃしなければならないのだろう。

しかし、たとえばコーヒー輸出国であるコスタリカの場合、元気のいい若者が一日中、一生けんめい豆をつみ取っても、一日のかせぎは十ドルにしかならないと言われている。輸出する時のコーヒーのねだんは不安定で、安くなった時に輸出国が輸出ふやせばその結果、ねだんはもっと安くなり、安くなれば、さらに輸出量をふやさざるを得なくなる。輸出国の経済は、先進国大会社コントロールされていて、人々の生活はなかなかゆたかにならない。

このような問題は南北問題と呼ばれている。コーヒー輸出国のように産業がまだあまり発達していない国々は、主に地球の南の方にあり、先進国は主に北の方にあるからである。80年代までの国際政治では、米ソ対立、つまり「冷たい戦争」が一番重要な問題であった。しかし、90年に東ドイツと西ドイツの統一が決まり、91年にはソ連もなくなったことによって、世界はまったく新しい時代に入った。そして「東西(とうざい)」の時代から「南北」の時代に変わったと言われるほど、南北問題は、現在、重要なものになっている。

この問題について、これもやはり私達のよく食べる物であるエビの場合を考えてみよう。たとえばインドネシアの人々は、エビを育てて、日本に売る。エビを育てるのには、マングローブ木の生えている所が最も条件がいい。だから彼らは大切なマングローブの木を切って、そこでエビを育てる。このようにして「南」の国々の自然はこわされていく。しかし、そんなことまでして育てた高級なエビは、もちろん日本へ輸出するための物であって、決して彼らの口には入らない。また、日本の大会社がエビを大きな船で海に出て取る場合を考えると、一キロのエビを取るために十キロの石油が使われると言われる。そしてエビといっしょに取れた魚(それはエビの七倍の量になる)は海に捨てられる。

このようなことをして、日本人はゆたかな生活を楽しんでいるわけである。これが現在の経済なのである。以上のことから分かるように、南北問題は経済問題であると同時に、環境問題でもある。このほか「南」の国々の中でも石油などの資源のある国は、それを輸出することによってゆたかになっていくのに対して、輸出できる資源のない国はますます貧しくなるという、いわゆる「南南(なんなん)」問題もこれから大きくなっていくであろう。

最近の世界経済の特徴としては、もう一つ地域主義がある。以前のように世界を二つに分ける「東西」のブロックがなくなってしまった現在何か別の地域的なブロックが必要になっているのかも知れない。以前はヨーロッパには「欧州共同体」(EC) があったが、一九九三年には、それに代って「欧州連合」(EU) が出来た。その目的が、ヨーロッパの国々が協力し、その経済をまもり、強くすることであるのは言うまでもない。ヨーロッパの国々は「一つのヨーロッパ」として人口約三四千万人の大きな市場を作っていこうとしている。アメリカはすでにカナダ、メキシコとの間でかなり自由な貿易を行なっている。経済力を強くするため、アメリカも地域的なブロックを作らざるを得ないのであろう。

アジアでもアメリカなどをふくめたアジア太平洋経済協力(APEC) 」というものが出来ていて、地域主義にむかっているようである。しかし、 EU のように、アジア全体を統一された市場にすることはむずかしい。まず、アジアは広過ぎる。アジアの一番南にあるインドネシアまで東京から飛行機で七、八時間もかかる。また国々の経済力、生活水準には違いがあり過ぎる。さらにヨーロッパや北米(ほくべい)の国々が、比較的似たような文化、宗教を持っているのに対して、アジアの場合は違いが大きい。そして始めに説明したように、南北問題が最もはっきりした形で出てきているのもアジアなのである。だから、アジアでも APEC のような地域主義が進んでいるとは言っても、EU とは違って、色々な分野で国々が協力することを第一の目的にしている

このような世界の中で、日本は今どんなことをするべきなのだろうか。いったい日本には本当の友達だと言えるような国があるだろうか。アメリカとの関係が一番深いことはたしかだが、すぐとなりの中国や韓国との関係も同じように大切である。日本には資源がないから外国とうまく付き合っていかねばならないというような経済的な理由からばかりではなく、文化的なこともふくめて、外国との良い関係を作っていくことが重要である。産業や教育や環境問題などの面で、日本がほかの国と協力できることはたくさんある。現在は、日本が協力によって友達を作るいいチャンスのはずである。