Lesson 8 – Main Text

Issun-Boshi – 一寸法師

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昔、ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいた。年を取っても子供がいなかったので、「どんなに小さくてもいいから、子供が一人あったらいいのになあ」と考えて、さびしくくらしていた。そして、子供が生まれますようにと神様に毎日お祈りをしていた。すると、ある日、おばあさんのおなかがいたくなって赤ちゃんが生まれた。しかしそれは小さい小さい男の子で、体の大きさが手の親指ぐらいしかなかった。それでも二人は喜んで一寸法師名を付けて、かわいがった。

ところが、一年たち、二年たっても、一寸法師はまったく大きくならない。病気をしたわけでもないのに、大きくならないのはなぜだろう。十二、三になっても、生まれた時と大きさは変わらなかった。二人は心配にもなり、またがっかりもした。毎日のように村の子供達に「ちび、ちび、カエル飲まれてしまえ」とばかにされて帰って来るのであった。
ある日、一寸法師はおじいさんとおばあさんの前にすわって、こう言った。

「長い間お世話になりましたが、私はへ出て、色々な経験をしてみたくなりました。おじいさん、おばあさん、必ずりっぱな大人になってもどってまいりますから、どうか行かせて下さい」

おじいさん達は、いなかの村でばかにされる子供が、都へ出て何ができるのだろう、と思ったが、何度も頼むので都へ行かせてやることにした。

一寸法師はおばあさんからはりを一本もらい、それを刀にし、みそしるのおわんをぼうしにし、はしをつえとして持って行くことにした。おじいさんとおばあさんは村のはずれまで一寸法師を見送って、こう言った。

「気を付けて行くんだよ。都へ行くのには、この道をまっすぐ行って、川に出たら、その川をどんどんのぼって行くんだよ」

一寸法師は言われた通り、歩いて行き川に着くと、おわんをボートにして、はしでこぎ始めた。おわんのボートに乗って、何日か川をのぼるうちに、家がだんだん多くなって来た。都の中心と思われるあたりに、が着いたのは、家を出てから六日目だった。都はいなかと違って大変にぎやかで、美しい着物を着た人々が右に左に歩き回っていた。そればかりではなく、時々目の前を通る、牛に引かれた大きな車が、彼にはとてもめずらしかった。一寸法師は人の足でふみつぶされないように、気を付けながら歩かなければならなかった。

しばらく行くと、大臣様の家らしい大きなおやしきの前に出た。

「このおやしきなら私に出来る仕事があるに違いない」そう考えて、を入り、「ごめんください」と声をかけた。すると中から、ひげをはやした強そうな男の人が出て来た。声がしたのに誰もいないので、変だと思っていると、一寸法師がまた大きな声でこう言った。

「ここにおります。げたの横におります。ふみつぶさないようにお気をお付け下さい」

この男の人が、一寸法師を手にのせてお前のような者が、何の用があってここへ来た」と聞くと、彼は都へ出て来たわけを説明した。それから「ちょっと失礼(しつれい)!」と言って、はりの刀をぬくと、飛んでいたハエぶすりとさしてつかまえてみせた。

こうして、その日からここで働くことになった。彼の思った通り、この家はその頃(ころ)、都で最も力のあった大臣様のおやしきだった。一寸法師の仕事は、大臣様のおひめ様の、勉強をお手伝いすることだった。おひめ様は心のやさしい大変美しい方で、彼のことがとても気に入(い)っていつもおそばにお置きになった。一寸法師はおひめ様といっしょに自分も読み書きを習うことが出来た。

そして何年かたった。ある日のこと、おひめ様はどんな願い事があったのだろうか、清水寺(きよみずでら)へお出かけになった。この時も、もちろん一寸法師を連れていらっしゃった。お寺から帰る途中で、人のあまり通らないさびしい所を歩いていると、急に空が暗くなって、大きなおにが一匹飛び出して来た。

「今日こそは、ひめをいただいて行くぞ!」おにはそう言って、おひめ様の着物をつかんで無理やり連れて行こうとした。

「おい!そうはさせないぞ!私が相手だ」

「何だ?お前みたいに小さい者が、なまいきだぞ!食べてやる!」そう言って、おには一寸法師をごくんと飲みこんでしまった。しかし、おにに飲みこまれた一寸法師は、はりの刀でおなかの中を何度もつきさした

「いたい、いたい、お願いだからやめてくれ!

一寸法師はおにのはなのあなからぽんと出ると、今度はおにの目を右も左もつきさした。おには「目が見えない、助けてくれ!」そう言って、山の方へ逃げて行った。

おには、ぴかぴか光る、こづちを残して行った。

「おひめ様、これがおにのたから物うちでのこづち」でございますね」

「そうです。これをふれば、どんな願い事もかなうと言われています」

「おひめ様、では、さっそくふってごらん下さい」

「いいえ、そのこづちは、お前が自分で戦って取ったものです。お前のために使いましょう。お前は何がほしいのですか」

「ほしい物は特にありませんが、ただがこんなにひくくては、不便で仕方がありません。もう少し背が高くなったらいいのですが」

それを聞くと、おひめ様は、こづちをおふりになった。すると一寸法師の背が少し高くなり、続けておひめ様がこづちを二度、三度とおふりになるたびに彼の背がどんどん高くなった。そして最後に一寸法師はりっぱな若者になった。

二人がおやしきにもどって、この話しを伝えると、大臣様も大変お喜びになった。一寸法師がおひめ様を助けたという話しは、都中(じゅう)の話題になり、彼の名を知らない者がないほど彼は有名になった。その後、一寸法師はまじめに働き、地位も高くなり、おひめ様と結婚(けっこん)し、いなかで待っていたおじいさんとおばあさんを都に呼んで、みんなで幸せにくらした。